BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『ファイヤーフォックス』-120727。

クリント・イーストウッドという
映画監督/俳優が好きだ。

この人が監督した映画や、
出演した映画で、
これまでに観たものは、
例外なくみんなおもしろかった。

なかでもわたしが好きな作品として
ファイヤーフォックス』がある。

先日もVHSで観直してみた。
うちにはイーストウッドの映画の
テープがたくさんある。
わたしの父が
イーストウッドのファンだったらしく
『ダーティ・ハリー』とかよく観ていたのだ。

ファイヤーフォックス
原題:Firefox 
クリント・イーストウッド監督・主演、
1982年、米

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www.youtube.com


東西冷戦下。
ソ連で新型戦闘機が開発されたという情報が、
NATOにもたらされる。
完全ステルス機であることにくわえ、
パイロットの思考を読み取らせることで
ミサイル発射などのコマンドを迅速に実行するなど
既存のどんな機種よりも進んだ性能をもっているという。
その名も「ファイヤーフォックス」。

NATO加盟各国は、ファイヤーフォックスに対抗できる
戦闘機を作りたいが、とてもすぐにはできそうにない。
そこで、ここはひとつファイヤーフォックス本体を
1機、失敬してきちゃおう! ということに。
実機をその目で見て、作り方を研究できれば
それが一番早くて確実に決まっている。

敵対国のソ連に忍び込み、最新の戦闘機を盗み出し、
それを操縦して、乗って帰ってくる。
このインポッシブルなミッションの遂行人に
ガントという男が選ばれる。
彼は米空軍の元凄腕パイロットだが
戦時体験がもとで心に癒えない傷を負っており、
退役して静かに田舎で暮らしていた。
パイロットとしての腕がいいのはもちろん
母がロシア人で、ロシア語をネイティヴに話せることから
NATO公認盗っ人を務めることになってしまった。
はたしてガントはソ連からファイヤーフォックス
持ち帰ることができるのか。・・・という筋だ。

古いけど、おもしろい。
話がわかりやすくすっきりしていて、
最後まで楽しめるように工夫されている。
具体的には、2時間の映画の前半と後半で
テイストをみごとに変えている。
しかも、すごくその切り替えが自然なのだ。
ひとつの映画のなかでテイストを変えるやりかたは
他の映画でも、なくはないとおもうが、たいていは
中途半端に2本の映画を観たような感じがするというか
ちぐはぐで、おもしろくなかったりするものだ。
でも、本作では、テイストが途中で変わっても
おもしろさは失速しない。むしろ加速する。

前半は、
ガントがソ連の軍中枢部に潜入し、
ファイヤーフォックス格納庫に迫るまでの
スパイ・アクション。
後半は、
シンプルなエア・コンバットだ。

前半と後半のかわりめに、違和感がないのは、
音楽の力も大きい。ガントがファイヤーフォックスに向かって
静かに歩いていく場面の音楽はいま聴いても新しい。
シンセサイザーかと思うが、すごく個性的だ。
それでいて、場面にぴったり合っている。
緊張感がすこしずつ高まっていく曲調は、
後半開幕への序曲にふさわしい。
ただ後半突入直後の音楽は なんかできそこないの
サンダーバード』のテーマみたいで、ダサいのだが笑

ソ連に潜入してからというもの、ガントは行く先々で
尾行されるわ殺されかけるわ、気の休まるときがない。
そもそも彼は今でいうPTSDで静養中の身なのだから、
いくら有能でも、こんな仕事をさせるべきではないのだ。
重責を担わされた彼はすっかり参ってしまい、
みていて気の毒になるほどだ。
誰か今からでも代わってあげてよ・・・、って感じ。

そんなガントがファイヤーフォックス
操縦桿に手をかけたときから、人が変わったようになる。
腕利きのパイロットの血が、呼び覚まされるのだろうか。
このガントの変貌ぶりも、本作の見どころだろう。

情けなく弱り切った男も、
二枚目のイーストウッドが演じれば悪くはないけど、
やっぱり後半からのガントのほうが、かっこいい。

エア・コンバットパートは、すごくシンプルながらも
戦闘機ってこんなにアクロバティックに動けるんだ!
と目をみはるシーンの連続。
特撮なんかは、今の映画と比べものにならないが
技術的な制約があるなかで、よくぞこれほどまでに
迫力あるシーンを撮ってくれたものだと思う。

・・・

どうやら怪しいやつが潜入してきたらしい、と
警戒するソ連側において、
主力政党の党首がじつに鼻持ちならないイヤなおっさんだ。
招かれざる客であるガントに、無線で話しかけるところは
貫禄と威圧感があってなかなかよかったが、
事態が悪化すると馬脚をあらわした。
自分はなにもできないくせに、横からいらぬ口をだして
「どうするつもりだ!」とか
「ああするべきではなかった」とか騒ぎ立てる。

錆び付いた昔の知識しか持ち合わせてないのに、
下っ端に勝手に指示を出して、現場責任者を困らせる。
でも地位が無駄に高いので、みんな逆らいにくい。
そのくせ自分の出した指示がまったくの見当はずれで、
良い結果がでないと「おまえのせいだ」などと言って
現場責任者になすりつける。

最低の上官だ。
こんな人とは一緒に仕事をしたくない。
どこにでも困った上司はいるんだね。

・・・

本作は東西冷戦をテーマの根幹に据えた物語ではあるが
そういう物語にいかにもありそうな
政治的イデオロギーの押し付け感が、驚くほど、ない。
わたしが本作を好きな理由はそこにもある。
その点を、薄い、なまぬるいという人もいるかもしれないが
わたしは 公平だ、うるさくない、いつの時代にも観やすい、
と 感じる。

旧式で狭量、威張りっぷりだけ超一流と、
強烈にカリカチュアライズされた「むかつく上官」が
ソ連側にいる、という点には
「東西冷戦時代のハリウッド映画」感
をさすがにちょっとだけ感じるが、
「わが国が正しい」みたいな
戦争ものによくある、鼻につく雰囲気はそれほどないのだ。

あまり重いことを気にせずに、
ますはゆったりと楽しめる映画だ。

そう、ふしぎなことに「ゆったりと」なのだ。
いわば戦争映画でありアクションでありサスペンスであり
癒しの効果などは期待できない。はずだ。だが、
ファイヤーフォックス』を観ると心がほっとする。
明快なお話運びに、清潔感と、理性と秩序が感じられる。
そして昔の映画ならではの、ゆるやかなテンポ。

・・・

スカッと気分転換をしたい、
でも
人が10分にひとり死ぬとか、
車とか建物が5分に1回爆発するとか
そんな映画が観たいわけじゃない・・・

そんなときは『ファイヤーフォックス』が うってつけだ。