BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-「ダークシャドウ Dark Shadows(2012)」-120520。

ダークシャドウ
原題:Dark Shadows
ティム・バートン監督
2012年、米

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movie.walkerplus.com


おもしろかった
設定が、
アレクサンドル・デュマ
モンテ・クリスト伯」に似ていた。
ぜんぜんちがうのだけど・・似ていた。
・閉じ込められていた男が解き放たれる
・男が閉じ込められていた事情に、
 恋愛トラブルと周囲の謀略がからんでいる
・男には財力とビジネスの才能がある
・物語に「海」が深くからむ。
・「船に荷物がいっぱいに積まれている」
 「港が栄える」といったことが、
  豊かさの象徴と、はっきり示される。

そういうところがちょこちょこ
似ていた。

でも、
本作「ダークシャドウ」における
「解き放たれた男」は、
エドモン・ダンテスとは
まったくちがう男だ。

モンテ・クリスト伯」では、
ダンテス自身が、ものすごく長い間、
死んでも死にきれないくらい激しく、
特定の人物を憎んでいるのだが、
ダークシャドウ」の
バーナバス・コリンズは
言うほどじつは
だれのことも憎んでいなかった。
怖いのは外見だけで、
その心は紳士そのもの。
彼が憎んでいるのは
意志が弱く誘惑にあらがえなかった自分。
空腹をみたすために紳士にあるまじきことを
しなくてはいけない、ヴァンパイアの自分。
どこまでもにくめない。
ちょっとまぬけな、いいやつなのだ。

エドモン・ダンテスがかかえる
あのすさまじい憎しみにあたるものは、
ダークシャドウ」では、
べつのキャラクターが持たされていた。
可愛さあまって憎さ百倍、
「愛している」がゆえに、
愛し返してくれないことが
憎らしくて恨めしくて、
その男だけでなく
一族郎党末代まで祟ってやる、
というくらい男を憎んでいる、女。
彼女を演じた
エヴァ・グリーンの美しさには、
まさしく魔性を
感じさせるものがあった。
彼女はたしかに愛しているけど、
ほんとに愛してるのは男ではなくて
自分自身。
そこまで含めてうまく演じていた。

こんなことを言うのは
失礼かもしれないが、
監督が腕をさらに
上げたように感じた。
とくに冒頭
ゴシックホラーテイストから、
アメリカンニューシネマテイストへの
吐き気を催しかねないくらいの一大転換を
おしゃれに、あざやかに
やってのけていた。
わたしの心をがっしりつかむ
オープニング、という意味では
いままで観てきた映画のなかでも
トップ10本に食いこむうまさだった。
ティム・バートン監督には、
こういうことをやるイメージが
あんまりなかったので驚いた。

でもそうでもないのかな。
撮りたいものを撮るためには
どんなことだってする人なのかな。
わたしがただ
わかっていないだけなのかも。

とにかくすっかり引き込まれた。
本気なんだかふざけてるんだか、
泣かせたいのか笑わせたいのか
それともどっちもさせたいのか
考えたら負けの映画だった。
だれもがすごく集中して
観ていたとおもう。

会話シーンがなんとなく、
体感的につねに数秒長くて、
だらだらつづくテンポ感が、
よくないといえばよくないような、
冗長といえば言えるような、
でもギリギリのところで
うまく調整をつけていて
結局なにやら観てしまう、
振り回されてしまうこのかんじは
やっぱりだれにでも
できるものではないだろう。

映像もすごく変わっていて、
目に焼き付く美しさ。

ヘレナ・ボナム・カーター
監督にとって
見てておもしろくてしかたない、
動物みたいなかんじなんだろうか。
たいていこの女優さんに、
魔女役とか悪い女王さま役とか
奇っ怪な役をさせているけど、
それがこんなにハマって
見える人もほかにいない。
かなりやせている人のはずなのに、
この映画のために
まさか体重をふやしたんだろうか。
脚をみたかぎり、
太ったように見えなかったけど
すこしはふやしたかもしれない。
歩き方とかでもうまく
「ちょっと太めのおばさん」を
表現していたようにおもえた。

かぎりなくへんてこだが、
良質な映画であったとおもう。
現実逃避希望者にうってつけ。