BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『麒麟の翼』/萩尾望都の対談集-120226。

映画の感想はネタバレしてません。
本の感想はすこし、内容に触れています。

・・・


麒麟の翼』
土井裕泰監督
2012年、日本

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www.youtube.com


1日経ったいま ふりかえると
そんなに印象に残ってない。
意外と薄味だったようだ。

2時間ドラマっぽい。

東野圭吾の小説を原作とする映画は、
いままでたまたま、どれも観ている。
そのなかでは『容疑者Xの献身』が
かなりおもしろかった。
ただ単にどれくらい感情移入できたか
ってことなんだろうな。
人によって、どういうのに
感情移入するのかは、ちがうからなあ

麒麟の翼』は、
子どものある方にはかなり
「来る」んじゃないかとおもう。
親子で観るといいかもしれない。

観てて飽きた、というほど
たいくつではなかった。
普通。

・・・

萩尾望都
『マンガのあなた・SFのわたし
萩尾望都対談集 1970年代編』
河出書房新社

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www.kawade.co.jp

 

萩尾望都さんのマンガはおもしろい。
それに画がきれいだ。
本書を購入したのも、
画がたくさん掲載されているのではないかと
そう思ったから。
本の内容自体に
関心があったわけじゃなかった。

ところが、読んでみたら
内容もすごくおもしろかった。
手塚治虫石ノ森章太郎
美内すずえ寺山修司などといった
そうそうたる方々との若き日の対談。

手塚治虫寺山修司との
対談がおもしろかった。

手塚治虫とのときなどは、
萩尾さんが緊張しすぎて、
わけわからないことになっており、
手塚治虫のなげかける質問の趣旨を、
ぜんぜん理解できておらず、
意味不明な受け答えをしていて、
そこがなんだかおかしかった。

手塚治虫は萩尾さんの作品を読んで、
萩尾望都さんがどういう考えのもとに
あのマンガを描いたのかとか、
なにから影響をうけたのかとか、
そうしたことが聞きたかったようで、
「こう考えたの?」
「こういう本を読んできた?」
などと尋ねるのだが、
萩尾さんは
「いや、そういうわけでは・・」
「その本はつい最近読みました」
「よくわかりません」
みたいになっちゃってて、
話がまったく進まないか
どんどん別の方へそれていった(笑)
手塚治虫も鷹揚なのか
テキトーなのか、
思ったような反応がなかったであろう
ときでも あまりこだわるようすはなく
まったくかみ合ってないのに
なんとなくたのしいかんじに
語り合っていた。
これはこれで悪くない
対談のような気がしたが。

萩尾さん本人のあとがきによれば、
手塚治虫との対談のときは 
すごくアガっていたようだ。
手塚治虫がなにを語り合おうとしていたのか、
何年もたってようやくわかったらしい。
そんなもんだよね!!

寺山修司との対談は、
寺山修司の頭の構造が謎。
寺山修司の、唐突にして
わけのわからない質問に
萩尾さんが困り果てつつも
一生懸命答えることをとおして、
対話が構成されていく。
寺山修司はたぶん、何も考えてなかった。
回答いかんによって、
彼女が評価に値する人物かどうか
決めようとしていたとか、
そんなつまらない
精神分析ごっこ
しかけていたつもりではないだろう。
単純にああいうことを
聞いてみたい気分だったか、
緊張していたであろう若い萩尾さんを
リラックスさせようとしたとか、
いずれにせよ気がやさしくて
ユニークな人だったんだとおもう。
寺山修司の繰り出す質問も
わけわからないが、
萩尾さんの回答も
負けじとわけがわからない。

でも必死で返した答えにしては
なんだかおもしろく、
寺山修司
ちょっとうならせもしているようだ。

たとえば
「生きたカタツムリを
100匹もらったら、何に使いますか。」
「困ったなあ・・。お庭に穴掘って
オイルかけて焼きます。」
・・・萩尾さんが子どもの頃住んでいた場所は、
土地が乾燥していたので、
タツムリがあまりおらず、
見つけると喜んだのだが、
寺山修司と対談したころに
住んでいた家は逆に多湿で、
タツムリが出まくるので
うんざりしている、というのが理由。


「この世でいちばん遠い場所は
どこだと思いますか。」
「うんと遠い場所、ね。
”自分が一歩進んだ時の前の位置”。」
「うん?ああ、そうですね。
前の位置ですか。」
「はい、一歩前にいた位置。」
「なるほどね。」

なんか、深い・・

寺山修司との対談を読んでいて
もうひとつおもしろかったのは、
当時 萩尾さんが連載をはじめていた、
新作への、寺山修司の反応。
萩尾さんの当時の最新作は
百億の昼と千億の夜』。
光瀬龍の同名の小説が原作の、
SFものだった。

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www.akitashoten.co.jp


今ももちろん読める。

女性マンガ家が
SFマンガに参入することが
いまよりずっとめずらしく、
萩尾さんがほぼひとりで、
その道をきりひらこうとしていた
当時はそんな時代だった。
百億の昼と千億の夜』は、
女性マンガ家である萩尾さんが
少年誌に連載していたことや、
原作がすごく高次元の
おもしろい小説だったこともあって、
各業界で話題になっていたらしい。
手塚治虫など、
ほかのマンガ家たちも
注目していたらしく、
この対談集でも多くの人が、
文字にするとそこそこの分量になるくらいの
時間をさいて、話題にしていた。
萩尾さんがどんな考えから
あのマンガを描こうとしたのか、
あのむずかしい小説を
どうまとめようとしているか、
みんな、知りたかった。

けど寺山修司の場合は
「いま連載ものがあるわけ?」
少年チャンピオンに毎週20ページです。」
「なんというものですか。」
百億の昼と千億の夜。」
「SFですか。」
「編集の人がSF好きなんですね。」

以上。

どんだけ淡泊なんだ。
寺山修司もだが萩尾さんも。

寺山修司に会ってみたかった。

わたしのはじめのねらいどおり、
萩尾さんの作品のカットが
ふんだんに掲載されており、
解説もついていて、
とても楽しい本だった。
対談相手がマンガ家の場合は、
その人の作品の画も、
数多くみることができた。
わたしもだいぶ萩尾さんの
マンガを読んでおり
対談のなかで
「あのマンガのあのシーンが」
「あのセリフが」という話題になったとき
「ああ、あれね」
となる確率がかなり高くて、
われながらおどろいた。

本書は基本的には
1970年代におこなわれた、
当時の大先輩や同世代の仲間との
対談集であるのだが
さいごに特別企画として、
ハチミツとクローバー』の作者
羽海野チカさんとの
対談が掲載されていた。
やっぱり 羽海野さんは
萩尾さんの影響をつよくつよく、
受けてきた人なんだなあ。
でもただの模倣や
焼き直しではない。
羽海野さんは羽海野さんで、
もうとっくに、自分のマンガを
確立しているとおもう。

楽しい本だった。
買ってよかった。
サブタイトルに「1970年代編」
と あるということは
続編を意識しているんじゃないか。
もしそうなら、
出たらぜったい続編を読みたい。
諸星大二郎井上雄彦尾田栄一郎
空知英秋とかと
対談してみてくれないかな。
もっとも空知英秋には
萩尾さんが興味をもってくれない
かもしれないが・・・(笑)