BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

映画の感想-『孫文の義士団』-120106。

原題:十月圍城
英題:Bodyguards and Assassins
テディ・チャン監督
2009年、中国・香港

f:id:york8188:20200429111805j:plain

www.youtube.com


よかった。
だいたいこんなかんじの
映画であることを想像していたけど、
おもしろさがここまでとは
おもってなかった。

清朝打倒・中国近代化に
多大な影響をあたえた政治運動「辛亥革命」。
革命の指導者のひとり・孫文が、
活動拠点のロンドンから
中国に一時帰国するという情報が 
同志たちのもとにもたらされる。
運動のハイライトとして、
中国各地で同時多発的に
武装蜂起することになったので
その作戦会議のために、
帰ってくるというわけだ。
しかし 中国にいる間、
孫文の命はたえず危険にさらされる。
彼の運動は海外からも注目を浴びつつある。
倒されたくない清朝側にとっては
彼の存在はもちろん、じゃまなのだ。
じっさい、西太后のもとに
500人の暗殺団が組織され、
孫文の命をねらっていた。
そこで、腕におぼえのある者たちが、
彼の護衛をする義士団を設立。
孫文が中国に上陸し、
集合場所にたどりつき、
秘密の作戦会議を済ませ、
ふたたび港にもどって船にのる、
この間、1時間。
義士団は、王朝暗殺団から、
孫文の命をまもりきることができるのか。
というストーリーだった。

とくに驚いたのは、セット。
清朝末期の香港に
行ったことがないから、
ほんとのほんとのところが
どうなのかなんて、
わたしにはわからない。
でも、本などで見た
白黒写真の、「あのかんじ」が
再現されていたと
思うかどうかでいえば、
まさしく、再現されていた。

陳腐で奥行きの感じられない、
いかにもセットっぽいものではなく、
作り手の気合をかんじさせる、
巨大な芸術品だった。

あの舗装されてない道路、
ほこり舞う町並み、
お金持ちも貧しい人も
老若男女雑然といりまじる
カオスな雑踏。
あの町を駆け抜けながら
くりひろげられる
バトルシーンは、
相当なかっこよさだった。

下っ端役人
鉄製扇子の男
そして革命運動の支援者である、新聞社社長
この3人が、物語の柱といえば柱。
だが、たくさんの人が
各々事情や気持ちをかかえて闘う群像劇。
ほかにも魅力的なキャラクターが
たくさんでてきていた

ギャンブル依存の下っ端役人
(ドニー・イエン)が最高。
下級役人風情に、
あのような一級品の
カンフーを身につける
金やチャンスがあったのか
とか、
カンフーの心得があるといっても、
ギャンブルまみれの
クズみたいな生活をしてた男が
急にあんな大役をひきうけて、
体が動くのか。
とか、
現実との折り合いをもとめようとすると、
設定がだいぶぐらつく気もしたが、
泥くさくワイルドな
バトルシーンはすばらしかった。

鉄製の扇子で戦う
謎の男(レオン・ライ)も、
雰囲気があった。
革命の同志というわけではないが、
重い過去をかかえて
生きる意味を見失い
無為にながらえている。
新聞社社長への一宿一飯の恩から
義士団にくわわることを承諾し、
このはたらきでもって、
自分の人生にけりをつける決意をする。
彼のバトルシーンは
「よっ!待ってました!」
というかんじで かっこよかったわりに、
なんかあんまり 強くなかった。
彼の役目は、15分間、
敵襲をくいとめることだったのだが、
かなり早い段階で、ほぼ死にかけてた。
ちょっと残念。
もう少し無双感がほしい。
でも 彼は死に場所を求めていたんだから
積極的に死ににいく戦いかたに
なるのもしかたがなかったのかな。

新聞社社長(ワン・シュエチー)は
気の毒で切なくて
見ていられないものがあった。
あれはないわ。
かわいそうすぎるわ。

登場人物全員を
深く掘り下げるわけには
いかなかったようだが
みな一生懸命に演じていたからか、
演出がよかったからなのか
「中途半端」とか
「薄味だなあ」などとは、
わたしは感じなかった。

アクションが見せ場の歴史物の映画で
これだけキャラクターに説得力があれば、
もう十分ではないだろうか。

ちょっとまえに
ジャッキー・チェンの「1911」を観たおかげで、
社会科で習った辛亥革命の知識を、
記憶から掘りおこしたまま、
まだ、しまいこまずに
残してあったのだとおもう。
観ていて、
わけがわからないということはなかった。

わたし自身はいま、国家をゆるがす
革命の渦中にいるわけではないので
本作に登場した人たちのような、
苦悩をいだくこともない。
その意味では、キャラクターたちに
感情移入がしにくかった。
また、ファンタジーなのかなんなのか、
まじめなのかジョークなのか、
微妙なネタがちらほらあった。
しかし、全体的には
ダイナミックかつ
なかなか繊細で、いい映画だったとおもう。