BRILLIANT CORNERS-2

本や映画の感想。まれにやる気があるときは別のことも書いています。

目黒区の小さい子が亡くなった事件…「謝罪文」に思うこと。-180609。

自発的に書いたのではない。保護者に書かされたんじゃないのか。

目黒区の5歳の女の子が亡くなり、保護者が逮捕された。

女の子がノートにつづっていた文が公開され 話題になっている。
もう悪さをしないからゆるして、といった趣旨の
保護者にむけた痛切な 謝罪ともとれる文だ。
連日暴行をうけ食事もまともにあたえられない
心身ともに最悪の状態であったなか
人しれず、保護者の眼をぬすんで 心のさけびをつづっていた、
そんな連想、同情をさそうのだとおもう。
「人しれず」「保護者の眼をぬすんで」。

だが、毎朝 修行僧さながらに早い時刻にたたきおこされ
勉強なんかをやらされていたと聞く。

勉強に使っていたノートと、くだんの文がしるされたそれとは、
同じものなんじゃないだろうか。

ただの「ノート」ではなく「書き取りノート」
としている報道もある。つまり書き取りなんかにつかう・・・
漢字の練習帳みたいなものに書かれていたという意味だろう。

漢字の勉強用、足し算引き算の勉強用、
目的別にノートをあたえるようなことを、
保護者がしていたとはおもえない。
勉強が必要だと信じて、勉強を目的として
勉強させていたわけではどうもないようだし。

利発な子だったのだろう。
おつむに自信がない親の場合
我が子の頭のよさに嫉妬することがあってもおかしくない。
一銭だって自分で稼げない、米も炊けないガキのくせに
わかったような口をきいて、ムカつく。
そんなに頭がよろしいなら4時から起きてやれなどと
早朝学習を 制裁として課した面もあったのでは。
もちろんそんなことは言えなかっただろうし、
我が子への嫉妬を自覚していなかったことも考えられる。
それでまあ 小学校でひらがなくらい書けなくてはなんて
かっこうのつく理由をつけたかもしれない。
・・・話がそれたが、そんなわけで
毎朝の勉強につかっていたのとおなじノートに
書かれたのではないかと、あの文は。

でも、それなら、
文が保護者の眼にふれないなんてありえない。
人知れず心のさけびを書き残す、なんて不可能だ。
保護者はお嬢ちゃんがちゃんと「勉強」をしたことを
定期的にノートをひらいて確認していたんじゃないのか。
かならずや知られただろう。ああしたものを書いたことが。
ほうっておくだろうか。
何も知らないでいて、突如 あんなものを見たら
万が一にも人目にふれて虐待がばれたらと危惧して、
書かれたページを即座に破りすてないか。
二度と 指示してもいないものを勝手に書くなと
いっそうひどい制裁がくわえられたかもしれない、
ほんとうに秘密で書かれたものならば。

保護者はあの文の存在を把握していた。なぜなら、書かせたから。
そう思われてならない。

毎朝のお勉強の達成度チェックのために ノートをひらいていただろう。
ぱらぱらとめくる程度、もうしわけ程度のチェックであり、
お嬢ちゃんもそれをよくわかっていて・・・
どうせお父さんは中身なんか見てやしないとふみ
最後の抵抗のつもりで書いてやったとか
いろいろと、考えられないこともない。
文はまとまったものでなく 
この日に1行、この日は4行といったぐあいに
散発的につづられた形跡がある、との報道もあるし。
保護者がまぬけであったこと以外に
目につきにくかったと考えてもおかしくない事情はありそうだ。
だが

虐待(容疑段階だそうだが。)が
明確な規則やルールにもとづいておこなわれたならまだしも
そう考える合理的な根拠たる情報はない。
このまえはこれをやっても何もいわれなかったけど
きょうはおなじことをやったら気絶するほど殴られる
といったような ルール無用、予測不能のサバイバル環境を
息をつめるようにしてすごしていたと想像する。
心は恐怖と疲労とかなしみにおしつぶされ
体は栄養不良で死に瀕し、それでまともな思考なんかできるか。
大人だっていじめやらハラスメントやらをうけたら
ものの数週間で神経がまいってしまうのに。

ごめんなさい、ゆるしてと書けばお父さんがわかってくれる
そんな筋道立ったものの考えかたができたとはおもえないし、
ゆるしをこえば、ゆるしてもらえる、
そんなこともかなわないおうちであること
彼女が5年間で学ばされたことは まさにそれだったんじゃないのか。

たぶん、いつも、書けといわれて書いていた。
それがあとでどんなことになるかなんて考えずに。
お父さんがゆるしてくれるかもなんて おもってもみなかった。

文の 妙な部分・・・
5歳児にしてはととのいすぎ、大人にしては幼稚すぎ

保護者がこまかな文言まで指定しなかったため
お嬢ちゃんは鉛筆のはしるままに文をつづった。
しかし 彼女の文章表現力は、
保護者の想像がおいつかないほど卓越していた。
(娘の自宅学習の進度を、聡明さの程度を
正確にはかれるだけのおつむがない、
気の毒な保護者なのだろうから、それもしかたがない。)
お嬢ちゃんにその気はなかったが
なにも考えずに書いたがゆえにかえって 
すなおな思いが言葉に載った。
(彼女の言葉の影響力を読み取れる
真の意味での読解力を持たない 
気の毒な保護者なのだろうから、
先をみこしてノートを破り捨てることが
できなかったとしても、しかたがない。)
それがいまこうして、
多くの人の心にうったえかける結果となっている。

または おつむが気の毒な保護者が
おもしろ半分、嗜虐半分、口頭で文言を指定したのを 
お嬢ちゃんがすなおに書き取ったか

どちらかじゃないのか。

だから わたしは、
子どものいたいけな謝罪文・・・
お父さんにゆるしてもらいたい一心で・・・
そういった意味では 心を寄せない。
(虐待が事実として)お嬢ちゃんを死なせた人間の
酷薄さに、身の毛がよだつ。
こうまでクズなことがやれるのが人間、
そのことを あと何回思い知らされるんだろうか。
自分も「キャリア」だから怖い。だって人間なのだから。

お嬢ちゃんを死なせたのが事実 彼女の両親だとして
ふたりを鬼とはおもわない。 ふたりは人間だ。
人間はけっきょくこれだけクズなことができる生き物なのであり、
けっきょくその程度のものなのであると
その意味で 人間だ、と たしかにわたしはいいたいのだが、
でも、それだけではないかなともおもう。自分の心のうちをさらうと。

逮捕され連行されていく ふたりの表情を
ネットニュースの 動画などで見た。

父のほうはちょっと 感想ののべかたがむずかしいが、
母親のほうは、これでやっとおわりにできる、逮捕されてよかったと
そんなようなことを 思っている人の顔にみえた。
これでやっとおわりにできる。

父のほうは・・・
自分はこれだけのことをやった、
それにたいしてあんたたちは 何をかえしてくるの?
しいていうならそんなようなことを
言いたそうな表情にみえた。
自分のしたことが是か非かは関係なく
したことと同等のなにかが返ってくるはずだと
500円払ったから500円のものが買える、というのとまったく同じ意味で。
なにかそんなかんじのことを。

そうしたふたりの表情を見て、人間だとやっぱりおもった。
どちらも 人ひとり死なせた疑いがかかっている者の
思考としては ややおかしいのかもしれないが、
意味が理解できないということはないし、
ややおかしい考えをする人だとしても、
そうなったすべてが本人のせいというわけじゃないとおもう。

我が子をいじめて手にかけるような親は
死んだ子とおなじ目にあわせて死刑にすればいい
そう多くの人がおもうのはそりゃもっともだ。

お嬢ちゃんは とてもかわいらしい子だった。
かわいらしいふつうの小さい子だった。
お嬢ちゃんの生前の映像をテレビでみたときは
おもわず かわいい、気の毒に、と声がもれた。

彼女を苦しめて死なせたのが親なら
その親も苦しんで死ぬべきなのかもしれない。
だがお嬢ちゃんはそれを望んでいるのかなとおもう。

知覧-鹿児島の作家さんの本・・・なにが「戦争」か-180602。

知覧についての本が、17~20冊。
有名な高木俊明「特攻基地 知覧」もあるが
鹿児島のちいさな出版社から出た本も、ある。
著者は相星雅子さんという地元の作家さん。
内容は「富屋食堂」と鳥濱トメさんに関する短いルポだ。

読み返した。

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華のときは悲しみのとき : 知覧特攻おばさん鳥浜トメ物語 (高城書房出版): 1992|書誌詳細|国立国会図書館サーチ


高城書房


知覧、富屋食堂、鳥濱トメさんについては、ネットなどで。

生前のトメさんは、
特攻隊の兵隊さんたちについて、あちこちで語ってきた。
「あの子たちは運命を従容として受け入れていた。
 りっぱに戦って散った、神さまのような人たちでした。」
そう結ぶのが常だった。
しかし、著者がいぶかしむように、
また、人ならばだれもが理解するであろうように、
まさか「神さまのような人たち」だったわけはなかった。
彼らはもちろん、まだまだもっと生きたかった。
目前に迫る死という運命に戸惑い、恐怖し、
愛する人たちとの別れが悲しくて、毎日泣いていた。
そして飛び立った。そういうことなのだ。当然だ。
特攻兵のみなさんと親しく交わってきたトメさんは
こうした彼らの素顔をちゃんと見て知っていた。
しかし、公に語ることはなかった。
それはなぜなのか。

「本当は、彼らも死ぬのが怖かったのでしょうね。
 彼らの等身大の素顔について語ってくれませんか」
著者が水を向けると、
トメさんは途端にだんまりをきめこむ。
著者は、そんなトメさんの真意をこう解釈した。

「母ごころ」(本書202ページ)。

「『特攻隊はこのように
  泣きごとも恨みごともいわず、
  時代の要請に応え身を捨てて
  祖国を守ろうとしました。
  しかし、その時を前にして
  彼等がどれほど苦しみ悩み、
  生きたい気持ちとたたかわなければならなかったか、
  わたしは知っています。
  彼等の心中をしのぶとき、このように酷い、
  戦争というものが
  二度とあってはならないと思うのです』
<中略>
 トメさんは実はこんなことくらい百も承知だったのである。
 わかっていながら故意にこの論法を採らなかった。
<中略>
 彼女は特攻隊員たちの心の軌跡を
 口さがない世間の興味の対象にされたくなかったのだ。」
(同 201-202ページ)

著者は、それでもトメさんに語って欲しかったと言っている。
彼らの苦悩と涙を、語り残せる人がいるとすれば
彼らの「鹿児島のおっかさん」だったトメさんをおいて
他にないからだ。
「そこに触れることを避け、
 暗黙の共感にとどめておくとすれば、
 いつかそのことは歴史から消されていく。
 そして特攻の壮行だけがひとり歩きして
 戦争の温床にされかねないのである。」
 (同202ページ)

とはいえ、本人が話したがっていないのに、
「それが世界平和のため」だからといっても、
ムリに語らせなくちゃいけない法もない。
人がやりたくないものをムリヤリというような、
力でいうこと聞かせる系のアレが、
まさに戦争をひきおこしたんだぞ! 
とかそこまでいうつもりもないが、
人の心はだいじだ。
人の世界を回すのは人の心だから。
「私が見せてほしいのは
 あなたの胸の引き出しの中ですよ。
<中略>
 隠してあげているつもりのガラクタ屑こそ
 最も真実で 美しいものですよ」
(同20ページ)
トメさんに話をしてほしい著者は、
このように内心で願いながら、当初はトメさんが
その気になるのを待ったらしい。
しかし、最後にはトメさんの気持ちを尊重し、
周辺取材から先述の推論をみちびくにとどめている。
力ずくでも「真実」を、
それがジャーナリスト魂というものだとしたら、
著者はそれを貫けない人、ということになるのかもしれない。

でも、わたしはこの本が好きだ。
著者のまなざしがやさしい。
掲載された写真に見る、若かりし頃のトメさんの姿は、
作家・島尾敏雄の妻、ミホを思わせる。

・・・

そういえば「帰還せず」という本にも、
取材対象から話を聞き出し切れないという
くだりがあった。

www.shogakukan.co.jp


太平洋戦争期、
アジア戦線に送られた兵隊さんで、
敗戦をうけ本国復員命令が下ったにもかかわらず
自分の意思で、帰らないと決めた人がいた。
著者がその人たちに取材してまとめたのが本作だ。

インタビューに応じてくれたかたのなかに、
こういうことを語った人がいた。
自分が「帰らない」と決めたのは、
上官たちが「あること」をする現場を
偶然目撃してしまったからだ、と。

「あること」の内容は不明だ。
本人が明かさないのだ。
著者は、無理に聞き出すことをしなかった。
どれほどか帰りたかったろうに、しかし帰るまい
一個の男にそう決断させたほどのこと。
それさえわかれば、
強いて聞かなくてもいいではないか。
といったことを述べている。

・・・

特攻隊=「戦争」とは理解しない。
戦死より病死が多かったという
レイテやサイパンインパール
それが戦争だ、と言われると、反論したい。
「おなかがすいてしょうがなくて、
 妹の粉ミルクを毎日こっそりなめていた」
そんなエピソードがあたかも
「戦争」の象徴のように語られることも
腑にはおちない。
(「戦争」ではなく「飢え」のエピソードだ)。
群盲象を評すとかいうけど・・・。

「戦争」をしないため、「戦争」を知るべき。
それはそうかもしれない。
まちがっているとまではおもわない。
しかし、体験してないからわかりません、
知らないので正しく判断できません、
なんていうのでは、この場合お話にならない。
やったことはないけど、でも、しない。
わたしたちはそう決断するのでなくてはいけない。

ぎっくり腰のシーズン/夢をみる/Nicc-180530-180531。

近所の接骨院の先生が 言っていたんだけど、
ぎっくり腰のシーズン、があるそうだ。
先生は、季節の変わり目ごろに・・・、とか
そういうふうには言ってなかったが、
年間で、ぎっくり腰の症状を訴える人が 
あきらかに多いと感じる時期があるという。
「今年もそういう時期か」、と思うそうだ。

わたしも10日ほどまえから腰を痛めて、診てもらっている。
毎晩というかほぼ朝まで ヘンな姿勢でパソコンの前にいて 
書いたり読んだりしていれば まあ
腰のひとつやふたつ 悪くなって当然だろうが。

あー腰をやってしまいそうだな、というときは
数日前からぴりぴり、というしびれが、
はしるようになったりするから、けっこうわかる。
以前、それを感じて
「数日以内に腰を痛める気がするから、いま診てください」
と 先生のところにいったら 忙しかったのか
「痛めてから来い、おれは対症療法だ」
門前払い(涙)
もちろん、ほんとうに痛めてからでは遅い。
翌日、すいている時間にもう一度行ったら
冷たいことを言わず、診てくれたが。

数日前に、やはり急性腰痛の予兆をかんじたとき、
今いったらまた追い返されるかなと迷ったのだが。
おっかなびっくり先生に事情を話したら
「なんだ、おまえもか。」と。今回はすんなりみてもらえた。
腰痛を訴える患者さんが増えていると。
この道何十年のベテランである先生も
「ぎっくり腰を訴える人が増える時期」だけは、
体験するたびに新鮮なおもいだという。
肩こりとか腱鞘炎とか骨折とかには、シーズンなんてないみたいなので。
なんでぎっくり腰だけが、とおもうそうだ。

早めにみてもらったので ふつうに生活できている。
靴ひもを結ぶとき かがむのがちょっと大変だが。

・・・

ゆうべ、といっても早朝5時くらいだが
ようやく 寝付いたときに
昨年暮れから今年3月末にかけて
前職の職場を相手取ってやった団体交渉にまつわる、夢を見た。
昨年暮れからこっち、おそらくはじめてのことだった。
フラッシュバック反応で見る、白昼夢とは違った。
変な時間に寝たから、まともな睡眠とも言えないが、
悪夢というかんじでもなかった。寝ると見る、あの夢だった。

まえにカウンセラーの先生が
「会社との争いや、上司にされたことの
夢を見るようになったら、心と頭の両方で
記憶が正常に処理されはじめた証拠」
という 意味のことを。
本人としては実感が皆無すぎてかなしいが、
わたしの体も頭もがんばって、治ろうとしているようだ。

枕や服がしぼれるくらい
涙が絶賛滝のごとく流れまくり状態で覚醒し、処理にまいったが
これがフラッシュバックだと もっと、 
烈しい苦痛と疲れ、恐怖感が あとあとまで残るものなのだ。
今回はそういうのはなかった。ただの夢。

・・・

ゆうべ、夜から吉祥寺に行き、
オーストリアのロックミュージシャン・Niccのライブをきいた。

niccmusik.com


彼のなにを知っているわけでもない。
以前、三軒茶屋でおこなわれたライブに、彼が出演してた。
そのライブに行った理由は忘れた。
演奏を聴いた。日本でドイツ語でロックをやってた。
それで知っていただけのことだ。
が、Twist&Jamsのくらさんの、
自分の所属しているバンドが(かわいいHPだな。)
Niccのライブのオープニングアクトをやる、との投稿を見て、
Niccって、あのNicc?と。こんなところでつながるとは。
つながるというか・・・べつにまあたまたま知っていただけだが。

聴きたいとなると あとさきかんがえず
のこのこライブハウスに足をはこんでしまった。
あとで 体調のことを思い出してすこしは後悔した。 
しかし、さいわいなことに
閉塞感のないよい雰囲気のライブハウスで
行ってみると まだライブが始まっておらず
イスに座って待っていられたし
知り合いが何人かいて話すことができたし
つらいことは なかった。

Niccは前に聴いたときよりもはるかに思索的で
ソリッドな音楽になっていた。
前はもっと通俗的で、キャッチーだった気がした。
どうかな とっつきにくくはなったのかもしれないが。
おしつけがましさはなく 
聴きやすさは いいバランスで保たれていた気がする。
歌詞から意味がすべりおちるほどのむちゃなテンポ感で
歌わないところも、個人的にはよかった。

かつて聴いたとき
くらい洞窟の奥から見る 早朝の森のような
清新なグリーンの印象を音から受けたことをおぼえてる。
最後から2番めの曲のときから
ステージのライトアップが
まさにそんなかんじの みずみずしく健康的な
グリーンベースに転じた。
やはり 彼の音楽に目のくらむような森の緑を見る人は
すくなくはないんだろう、と。

ハーモニクスがゆたかに鳴りまくり
ピットにオケでもいるのかい、というほど
音に厚みがあった。

音楽の売れる売れないはよくわかんないが・・・
まあ 売れないんだろうけど・・・ いい音楽だったとおもう。

www.youtube.com

www.youtube.com

そもさん-7-180529。

商社の営業事務だったときのこと。

自分よりも10ちかく年下の同僚が、
営業に
「めんどうなことを頼んでしまってごめんね」
とかなんとか あやまられたときに、
こう返した。

「いえいえー、お仕事ですから。」

それを聞いて、
この子は おとなだなあー と
思ったことを、よくおぼえている。

「いえいえー、お仕事ですから。」
的な感覚が、わたしには 皆無だ。
わたしの仕事観はもっとこう・・・
部活みたいなかんじであり、それは、たとえば
「ドライ」とか「ビジネスライク」とかいう
言葉とは 無縁の範疇にある。
全人格、全存在をかたむける。
生身の人としての信頼関係、
人間関係、感情、なにかそういうものを
もちこんではばからない。
仕事だから、仕事じゃないから、そんな考え方がまずできない。
導入しようとつとめたことは何度もあったが、
ちゃんと成功したためしはない。

帰れる場所、・・・たとえば家族
心に持っていれば またちがうのかなとおもうが。
ないなら新しくいまから作ればいい というのともちがい、
もっとこう・・・
絶対的な、安心感を与えてくれる場所ということだ、
基本的な、根本的な意味での帰れる場所。
それを持っていない。
持っていないから、ほしくて、仕事に求めてしまっていると 
指摘される。

そのとおりだ。

ほかの人はどうかわからないけど、わたしは 
帰る場所がない、と感じながら生きることは
きわめてむずかしい。
とても弱い人間だから。

それだから いま、こんなにも喪失感をあじわっている。
刺激的でたのしい仕事だったからというだけでは
すまないほどつよく 退職に挫折を感じ、望みをうしない、
無力感にうちひしがれている。
またも、ここでも必要とされなかった、とか考えて傷つき、
自分の「居場所」はどこにあるんだろう
なんて悩む。

でも 本来 仕事に
家族みたいなかんじを求めるのは 筋違いだろう。
求めずにいられないのは きもちの問題だから
しょうがないのかもしれないが・・・

企業に所属してとりくむ仕事である場合・・・
企業って、そういうものじゃないから。
企業は 利益の追求のためにある。
家族みたいな職場環境をつくることが
利益をあげるために効果的、と判断された場合において
家族っぽい職場環境をきずく、そんな方針がとられる
・・・ことはあっても、
それは当然のことだが、ほんとうの家族じゃない。
模しているだけだ。家族じゃない。
それに気づいたときに
必要以上に傷つくまぬけは、わたしだけだ。
いつもそうだった。

一般に、とか 規範、とかいったものから
はずれることがすごく怖い。
自分が傷ついたときのきもちは いつだって、
「みんなできてること、あたりまえにやってることが、
自分だけできない」だ。

なにか決定的に違う。
根本的に欠けている。
バランスがおかしい。
平均値を逸脱してる。
お呼びでない存在だ。
自信がない人間であるくせに
この劣等感、「欠陥商品」感、「余剰人員」感にだけは
確固たる自信がある。

もっとまえなら まだなんとかなったろう。
でもいまとなっては とりのぞくことがむずかしい感覚だ。
なんとなく 弱まってくれるとき、
つらいきもちにさいなまれずに 過ごせる時期も
さいわい なくはないけれども、
ちょっとした拍子に、すぐ頭をもたげてくる。

回復の過程にあるとき、
きもちは
ぜんぜんたのしくないしうれしくもない。
なまあたたかい空気、イヤにふきあれる風、
不快に強い雨が降る、蒸したかと思えばぐっと冷え込む。
季節の変わり目がそうであるように
上がったり下がったりをくりかえしながら
なんとなく、いつのまにか、
あらたな正常値が決まっていくんだろう。
決まるまで、
おとなしくしているべきだったかもしれない。

回復にむけた いわば過渡期を
自分にゆるすことができなかった。
しずかに休養することに たえられなかった。
それをすると、まだ過去になってない過去と
向き合う時間が増えかねなかったからだ。
でもその判断は、あやまりだったかもしれない。
他人にとばっちりがいく。
必要な時期だったんだろう。
治ったけど、治ったとまだいわれたくないよ、
まだもうすこし休んでいたいよ、と体が訴える、
そいつに耳をかたむけてやるべきだった。
治癒の過程として欠いてはならなかった 甘えの時期を、
人にめいわくがかからない場所で、 
おとなしく甘えて、過ごしてみればよかった。

無題-180529。

気分転換、気晴らしの方法がけっきょくよくわからない。
ひとつふたつは見つけた気もするが
いつでもすぐにできることではないために
ほんとうに煮詰まったときにかぎって 
逃げ込むことができず 苦しむはめになる。

それについて考えてじたばたすることじたいが苦しい。

社会生活をおくるためには、
自死を選択しないためには、
ごまかさなければならないことが多々ある。
それに
いかにさしせまった思いに苦しんでいようとも、
やさしい人たちが笑わせてくれたときには 
つられて笑顔になる場合もある。
そうさせてくれる彼らが心からいとおしい。
なぜなんだとか、自分のせいだったかもとか
彼らに万が一にも思わせないためには
やはりいまこの環境でこの状況で
自死だけは絶対に 選ぶわけにはいかないと 
そういう意味でひきとめてくれる人たちであるから。

食事は残さずに食べるもの、という意識があるし
味を感じないこともない。
きれいな絵をみれば心が動かないこともない。
音楽をきけば美しいと感じないこともない。
トイレにいきたいとちゃんと感じる。
そんなことって、
欺瞞だと、ごまかしだとおもわないですめばなあ。
罪悪感とか ウソをついてる感みたいなのを
こんなに感じなくてすめば。
人とかかわって生きる以上
見て見ぬふり、感じないふり、感じているふりは欠かせない。
人とかかわらなければ そういうのはないのだろうか。

昨年末からこっち、
気分転換、気晴らしの方法を
みつけることが生活のほぼすべて。

あんまり弱虫で、しんぼうがきかない。
そんな自分には、わきめもふらず闘い続けるって、できなかった。
へし折れた心、いたむ心、
なにもかも破壊したくなるような烈しい怒り、
傷、かなしみ、苦痛、孤独、
それらと向き合い続ける、というのがとうていできなかった。
向き合い続けることは、すなわち認めることであるとおもう。
へし折れたという事実を、
いたみを感じているという事実を、
解放したら最後 コントロールがきかないほどの
怒りが心の奥底にたぎっているという事実を、
傷を負った事実を、
かなしんでいるという事実を、
苦痛を感じているという事実を、
さびしいという事実を。
でも認めたとして、どうすればいいのかはわからない。
なんの力も自分にはない。それはそこなわれた。
そして、ここからはひとりだ。
助けてくれるものはなにもない。
なのにこのようなことどもとどう闘えばいいか、
それがわからないのに正面きって 受け入れたところで
負けが決まっているとおもうのだが。
負けとは、生きていけない、と結論を出すことだ。
自死をできれば選択したくない。

なにもかもダメになってしまった、と感じる。
今後たのしいことがあるかもとかいう
素朴で根拠のない希望は、もうみいだせない。

これほどつまらない、なさけなくて見苦しい、
賤しい人間がいるだろうか。こなごなで、なにもない人間が。

なんでそこまでおもうのかと 自分でもおもうことはある。

たかが 愛した仕事を失っただけ、
やや重篤に体調を崩して完全な復調に時間がかかるだけ、
たかが上司にたかが1か月、暴言をはかれつづけただけだ。
やめてくれといえばいいのに言えなかった、
そんなばかげたことのせいで。
自分がまちがっていた。不当な扱いを拒めなかった点で。
それだけのことだ。
凄惨な殺人の現場を目撃したとか乱暴をされたとか
心が焼き切れて当然の体験をべつに したわけじゃない。

なのに なぜこんなに挫折を感じるのか。
胸が痛む。わたしはかなしい。
かなしいつもりはないのに勝手に涙がでてくることはあるくせに
ほんとうにかなしいときにかぎって涙一滴でてこない。
感情を解き放つのが恐ろしくて、自分に許可できない。

わきめもふらず闘い続けるのは不可能。
でも 目をそらし続けることもできない。
逃げ道を確保しつつ、闘えるときに闘う。
そんな器用なことができるかわからないが・・・

祖父母の法事から-180526。

母方の祖父の三十三回忌、祖母の二十七回忌の法要がおこなわれた。
東京都下、母の実家の目と鼻の先にある菩提寺
いつものお坊さんにお経をあげてもらった。
学生時代、あれこれと強く悩んでいたころ、
叔父を訪ねるついでにお寺に行き、お坊さんと話した。
当時から、このお坊さんは変わらない。元気で、お声も美しい。

幼かったころは、家の宗門なんか知らなかったけど、
いまは知っている。
真言宗智山派、総本山は智積院大本山成田山新勝寺
歌舞伎の成田屋と同門であることまで把握ずみ、
お経も教義もかじってある。それと信心とはべつだが。
娯楽だ、興味があるだけ。
昔はたいくつだった法事も、今回はおもしろかった。
お経もよく聞くと興味深い。というか、単純に
本でみた言葉を音で聞くとうれしくなる。
経文を頭のなかで漢字に変換し、返り点をつけたりしていたら
時間はあっという間にすぎた。

もっと昔の法事で聞いたお経と同じフレーズが、
当然のことながら、今回も聞こえた。
小学生だったわれわれきょうだいには、その部分の響きがおもしろく、
つい、ふきだして、あとで親に怒られた。
たぶん今回お経を聞いて「あ!あのフレーズ」っておもったのは
きょうだいでわたしだけじゃなかったはず。
昔、笑っちゃって叱られたな、という共通の思い出を、
それぞれによみがえらせたんじゃないか。

話はそれるが、父のほうのこと。

父は末っ子だ。
だが、父方の祖母の葬儀は父のもとで、わたしの家でおこなわれた。
一般に、親の葬儀の喪主は長子が務めるのでは?
自宅葬なら長子の家で営むものではないのか。
父方の一番上の伯父は、持ち家に住んでいる。ほかの伯父、伯母も。
なぜ、末子の父の家で葬儀を?
喪主は伯父のだれかが務め、場所だけ父の家で、だったのか? 

だれも喪主をやりたがらないほど、きらわれた「母」だったとか
そうした事情が何かあったのか?
父方の祖母は、温厚で謙虚な人だった。
祖母がしてくれたさまざまなやさしいことの記憶からは、
わが子らに忌避される要素はみあたらない。
だがまあいろいろあるし、家族って。

芋づる式にもうひとつ。
父は、6人ものきょうだいの末子だ。
だが父方の祖母は一時、わたしの両親と同居していた。
6人きょうだいの末子と、母が同居・・・
わたしの母との嫁姑問題に悩み、
祖母はわたしが生まれる前にわが家を去った。
・・・
父は、母であるところの「千葉のおばあちゃん」を慕っていた。
きわめてボーっとした子であったわたしが、
自分の家で父方の祖母の葬儀がおこなわれた、
という 5歳当時のできごとを覚えているのには、わけがある。
葬儀がおこなわれた夜のこと、
居間にいくと、祭壇の前で父が寝入っていた、棺によりそって。
彼の体に、毛布がかけられていた。
だれかが気遣ったんだろう。父愛用の毛布だった。
当時すでに、両親の関係は崩壊してた。
そこからいけば、母がかけた可能性こそまっさきに消える。
だけど、わたしは「お母さんがかけた」と考えた。
それを記憶している。
よその家でおこなわれた葬儀なら、
毛布は「よそのおうち」のものだったろう。
でも、父の毛布だった。
その毛布が、どこにしまわれているかを
知っている者がいる家での葬儀だった。
だから、葬儀があったのはわたしの家だったと。

ところで 父方の祖母を
「千葉のおばあちゃん」としたが、父方の実家は東京だ。
なのになぜ千葉の、なのか。これも謎だ。
伯母のひとりが千葉に嫁いだことは事実だが、
祖母が伯母と同居したことは、わたしが知るかぎり、ない。
両親との同居を解消してすぐ施設に移り、その2年後に亡くなった。

・・・いまおもえば父方は浄土宗だった。
父が仏壇を撤去してしまったけど・・・
千葉のおばあちゃんが、よく、お念仏をやっていた。

・・・

家族と終日いっしょにすごした、法事の一日はつらかった。
これまで、家族との関係の修復を 
仕事をいいわけに、あとまわしにしてきたことのつけか。
「家族と過ごす時間をもちたいけど
そんな時間がなくて、かなしい」
というきもちをいだいたことは、ない。
家族と過ごしたいとか あまり・・・いや、
ほとんど、・・・いや、全然、おもわない。

一般常識?として、家族とは 
安らぐことができて、会話ができる
いいかんじのもの、と知ってはいる。
そうした家族は構成員のたゆまぬ努力あってこそできあがるもので
努力なきところへ「よい家族」はない、ということも。
その努力を怠った人間であるところのわたし。
でも今からでもがんばればいい、
それも考えかたとしては理解する。
だが、資格も権利も責任もなかば放棄している。

一日中 至近距離でいっしょにいるとなると
お互いにイヤなきもちにならないですむように
多少は演技?それらしい態度で、と気を遣う。
法事のあったこの土曜は、疲労困憊であった。
とりつくろっている、というそのかんじが苦痛。自業自得だが。

このことだけで 1万字くらいは苦もなく書ける。
でもまたこんど。

手記-其の弐拾壱(仮題)-20171213-宣戦布告-2

2017年12月13日、
労働組合・総合サポートユニオンに個人で入会。
団体交渉申し入れ書と要求書を
職場にFAXで送信し、「宣戦布告」。

はじめにSさんがわが職場に電話をかけたとき、
専務は不在。
15分もすればという話だったため、待機。
こちらから再びかけてもよかったが、
15分後、意外にも先方から、
ちゃんと電話がかかってきた。

・・・

Sさんの電話は
外部スピーカにきりかえられ
ボイスレコーダもオン。

専務の声は・・・ 
高くハリのある
テノールを想像していただきたい。
言葉のはしばしまでムダに明瞭、
しかしやや のったりとしたかんじに話す。

Sさんは専務より4音分くらい低くて硬質、
ちょっとスモーキーな声。かなりの早口。

専務
「(名乗らずに)そちら、
『総合サポートユニオン』の・・・」



Sさん
「(ちょっとかぶせぎみに、
有無をいわさぬスピード感で)
あ、そうです、はい。」



専務
「代表のミウラ●●さんから
ファックスをいただいたんですけど」



Sさん
「はい、それはわれわれの組織の代表です、
すみません●●●社の専務さまですか?
お名前をおっしゃらないので。すみません」



専務
「Tと申します」



Sさん
「こちら『総合サポートユニオン』の支部のひとつで、
ブラック企業ユニオン』の、わたしはSと申します。」



専務
「はいー、おせわになりますー。」
おせわになるなよ・・・



Sさん
「(かぶせぎみに)
ファックスが
お手元におありだとおもいますが、」



専務
「(かぶせぎみに)
はい、持っていますー。」



Sさん
「御社の従業員のYさんが、」



専務
「Y。Y。はい。」



Sさん
「わたくしたちの労働組合に加盟され、
御社に団体交渉を申し入れます。」



専務
「(小声で)団体交渉・・・」



Sさん
「要求書と団体交渉申し入れ書を
ご覧いただければ
わかるとおもいますが・・・」



専務
「(さえぎるように)
この2枚のファックスですよねー。
えーとなになに
『団体交渉申し入れ書』と
こっちが『要きy・・・』」



Sさん
「(かぶせて)
確認ですが、
労働組合が団体交渉を申し入れた場合、
会社側には誠実に対応する義務がありますので、
団体交渉を拒否されたり・・・」



専務
「(悪気なくかぶせて)
はい、それははい、
対応させていただきますけども・・・
書類の意味とかがよくわからないので
電話させていただいて」



Sさん
「(さえぎるように)はい、
ですが まず確認事項なのですが、
団体交渉を正当な理由なく拒否されたり
誠実に対応していただかなかった場合には、
労働組合法違反となりますので、
ご注意いただきたいです。」



専務
「はい、あのー、
もしなにかありましたら
訴えていただくなり
していただきたいと思います」



Sさん
「はい、イヤ ですから、
訴えなくちゃいけなくなるようなことを
やらないでいただきたい、と
申し上げているのですが(笑)」



専務
「あ、すいませーん。はい。」
そばで聞いているMさん、くすっと笑う



Sさん
「(専務がなおも何か言おうとするのをおしとどめて)
ごめんなさい、さきにお話を。
今後ですが、交渉中にYさんと直接連絡をとったり、
あるいは御社の従業員に
『きみも組合に入っているんじゃないか』と
問いただすことも、組合法違反にあたるので、
お気をつけください。」



専務
「はい、
わたしも知識がないもので、
代理人を立てたほうがいいですかね」



Sさん
「それはどちらでも」



専務
「確認なんですけれども。
一発目の要求は、
タイムカードとビルの入館証と、
雇用契約書と給与明細と就業規則と、
時間外労働に関する労使協定締結・・・」



Sさん
「協定書って、あります? 
労使協定って、ありますか? 
いわゆる三六協定(※下記)ですけど。」
※三六協定:

www.roukitaisaku.com




専務
「社長に確認します~。」



Sさん
「社長に確認する・・・
(あなた自身は把握してないのか、というかんじを
ありありとふくませて)
就業規則はありますか?会社に。」



専務
就業規則も・・・
どこかにあるとおもうんですけど
それも社長に・・・」



Sさん
「あ、社長がおくわしいんですか」



専務
「社長が書類管理します。
就業規則、ないってことはないです。
探します。」



Sさん
「(そしらぬふりで)
では今、会社にはない?」



専務
「会社にはありません。」
また言ってる!!



Sさん
就業規則も労使協定書も、会社にはない。」



専務
「(決然と)ハイそうです。」
そんなにキッパリと!!



Mさん、わたしの顔をみて 笑顔をうかべる。
就業規則は事業所に保管し、
いつでも従業員が見られるように
場所をあきらかにしておかなければならない、
という法律にもとること、つまり会社にとって
今後不利になりかねない事実を 
専務があまりにはっきりと言ったから 
笑ってしまったんだろう。



Sさん
「(幼稚園の先生が、小さい子のおしゃべりを
やさしくさえぎるときのような調子で)
そうなんですね~、は~い、わかりましたー。」



専務
「あと、Yさんと、
『2018年1月20日で正式退職の形をとるけれども、
2017年12月28日で実際の勤務を終了し、
1月20日までは有給消化』という話になってたんですが、
その話はもうなくなったんですかね」



Sさん
「そうですね。12月28日まで出勤すること自体が、
すでに体力的、精神的な意味で・・・」



専務
「それも本人に言ったんですけど、
体調が悪いようならご自由に、
休んだり、遅く出社したりしてもいいみたいな。」
・・・言われてないけど。



Sさん
「休んだ場合は有給休暇扱いになるのですかね」



専務
「というか、
従業員が仮に病気で月に何日か休んでも、
その月の給与は全額だすんですよ。
だからYさんが28日までのどこかで休んでも、
このまえ入院して休んだ分ももちろんですが、
給与はぜんぶでます。
Yさんの、12月28日から来年1月20日の給与も、
実質的には退職しているけど、ぜんぶでます。」
・・・これがほんとに何度考えてもよく理解できない。



専務
「Yさんからはそのこと聞いてないんですか?」



Sさん
「御社が、ケガや病気による欠勤に関して
そういう取り扱いをされていることは聞いています。
じつはその点でうかがいたいことがありまして。
病気で休んだけど給与はだす、ということは、
休んだ日は出勤扱いでしょうかね?」



専務
「(しばらく考えて)出勤扱いではなくて、
まあ・・・休みなんですけど、
有給消化とか、形はなんでもいいんですが、
うちの会社は、病気で休んだからって
給与を減額したことはないんです。
事情で月に数日しか出勤しなかったとしても、
給与は日割ではなく全額でてまして、原則。」



Sさん
「じつは、Yさんは退職後の傷病手当金の受給を
考えておられまして。
Yさんはじっさい医師の診断書がでている状態ですので、
傷病手当金を受給して、
退職後しばらく休養したいと考えています。」



専務
ハローワークの『傷病手当』は受けないのですか
(このあと30秒くらい、
専務による『傷病手当』の受給要件などの
解説がなぜか とうとうと続く)?」



Sさん
「(悶絶ぎみ)
その解説、いま必要あります?
受給を検討しているのは、
健康保険の傷病手当金です、
さいしょに申し上げたように。」



専務
「そうなんですかー、はーい。
でもそれ、在職中にケガとか病気で休んで
給与が出なかったときにっていうのですよね。
でも、うちは休んでも給料でるので、
支給されないんじゃないですか。」



Sさん
「受給を検討しているのは、退職後の傷病手当金です。
その件で、考えていただきたいことが。
退職後に傷病手当金を受給する要件として、
まず、在職中に、退職日を含む最低4日間は欠勤した、
その4日間は無給だった、という事実が必要なんです。
ですから
少なくとも今後 退職日を含む4日分は、
欠勤扱いで、給与も出さないでほしいのです。
その4日の最後の1日を申請日として申請すれば、
退職後の傷病手当金が受けられるので。
2018年1月20日を最後とする、その前少なくとも連続4日間を、
欠勤・無給の形にしてほしいのです。」



専務
「(あきらかに、ぜんぜんわかっていない)
ふーん・・・ 
まあ、そこは交渉ということで。
でも、退職はするんですよね?
退職をしたら、うちの保険使えなくなりますよね。
傷病手当金ももらえないんじゃないですか?」



Sさん
「退職しても任意継続が可能ですし、
退職して健保を脱退しても、受給申請できます。」



専務
「そうなんですか。
法律くわしくないのでまあそのへんは・・・」



Sさん
「次に、要求として、
未払い賃金の支払いの件がありますが」



専務
「(要求書をみながら)
『2015年以降の未払い賃金』・・・
Yさんて2015年入社でしたっけ」



Sさん
「イヤ(未払い賃金などの請求の)
時効の問題がありまして。
もっとさかのぼって払っていただけるなら
それでもかまわないんですけど。」



専務「Yさんて何年入社でしたっけ」
・・・専務、あなたの会社の社員です。



Sさん
「(ややうんざり顔で)
2013年です。
2013年にさかのぼって払っていただけるなら
それでいいですが。それで請求しましょうか?
じっさい残業代、未払いですよね?」



専務
「そうですね。
特別手当以外の残業代は支払えないので、
早く終わらせて早く帰ってね・・・という形なので、
それ以上の残業代は払っていません」



Sさん
「あ、『特別手当』。
たしかにYさんの給与明細を見るかぎり
毎月何万円か『特別手当』が支払われていますが。
これは、月何時間分の残業にあたる手当ですか?」
・・・Sさんは「特別手当」を、固定残業制における
固定残業手当とみなしているみたいだな・・・



専務
「(その質問には答えずに)
能力給みたいなものです。
時間ではかれる仕事じゃないので、
法律上はともかく、
24時間いても1ページも終わらない人もいれば、
1時間で24ページ書いてしまう人もいるので、
できる人には能力給を積み上げていく。
残業をしないでも早くおわる人は、能力給が上がって、
残業代を支払っていないというような形です」



Sさん「うーん。」




専務
「それは入社のときにYさんにも説明をして。
残業代が支払われないブラック企業ですけど、
それでもよければと。」
・・・そんな説明受けてないわ!
ブラック企業でもいいですか?はい。なんて
雇用契約が存在したら、世界が破滅するわ!)



専務
「Yさんは身体面に
ほかの社員と比べてちょっと不安があったので、
契約をめぐって、話し合いは何回かあったんです。
本人の続けたい意志が固かったし、
まじめにやってくださるので、
月に担当する進行の件数を少なめにしたうえで、
続けてもらってました。」
・・・それは事実。



専務
「でも勤務形態にとか不満があったのなら
それは聞かせてほしかったですけどね。
あと、(要求書に)
パワーハラスメントへの謝罪および
本意でない病気退職の原因となった
長時間労働に対する賃金保障』
とありますが、
長時間労働に関してはまあ・・・、でも・・・」



Sさん
パワーハラスメントがあった、というご認識は
専務にはないですか?」



専務
「なんでもパワーハラスメント
なってしまいますからね。
従業員に注意をしたときに
声が大きかった、とかでも、
されたほうがパワーハラスメントと言えば
それはそう・・・。」



Sさん
「では、パワーハラスメントかどうかはおいて、
大声で(編集長が)Yさんを怒鳴ったりといった
ことはありましたか」



専務
「ありましたね。しょっちゅうありましたね。」



Sさん
「専務的にはパワーハラスメント
いうほどのものじゃなかった、
というかんじですか」



専務
「うーん。まあそういうことがあったときは
編集長にあとで事情を聞いて、・・・まあ
あの編集長は大声を出したり、けっこう
あるので・・・言い分を聞いて判断しないと・・・。
編集長が怒鳴ったりするのが
パワハラなのかどうかは
ちょっと自分はわからないですが、
Yさんがそう感じた、ということであれば、
それについては理解しました。でも
編集長はYさんだけにではなくて・・・
けっこうだれに対してもですからね。
期日を守らなかったり
指示と違うことをしたりすると。
編集長自身はそれをパワハラとは
思ってないとおもいますけど。
わたし自身はまあ・・・わかりません。
Yさんと編集長で
見解に相違があるということですね。」



Sさん
「総合的にいって、長時間労働
編集長による11月の1か月間のパワハラ
引き金となって退職せざるをえない状況になったので
それについての賃金保障を求めます。
さらに、Yさんは、
編集長からの謝罪を求めています。」



専務
長時間労働の件はわたしの管轄で、
パワハラは編集長に対してですよね」
・・・理論的には
パワーハラスメントだって専務の「管轄」だ。
経営者なんだから。

 



専務
長時間労働・・・
残業とか、休日出勤は、各自の判断でやるけど、
やったときは報告をするようにと
指示していたとおもうんですけど・・・」
・・・やったときは報告をするように、か。
言われたおぼえがない。言われた社員も
いるのかもしれないけど。わたしが言われたのは
休日出勤はタイムカードを押さないように、
押しても時間外は出ないから、ということだけだ。



専務
「要求書でいうと、
Yさんは編集長に、
ご自分への謝罪にくわえて、
ほかの従業員にたいしてももう同じことをしないという約束、
それから、
会社から編集長への譴責以上の懲戒、を求めているんですね。
でも、ご自分が受けたパワハラの謝罪を求めるのはまだしも、
ほかの従業員がパワハラを受けてもいないのに、
従業員にするなと、Yさんがいうのはどうなんでしょう。
従業員からは、パワハラの訴えとかでてないですよ。」



Sさん
「ほかの従業員はパワハラを受けていないとお考えですか」



専務
「(質問には答えずに)
謝罪文を書けと言うのは・・・」



Sさん
「ごらんいただいている書類には
『謝罪文』とは書いていないですよ。
謝罪です、編集長からの」



専務
「でも実質的には謝罪文ですよね。
それと、自分にしたことをほかの従業員にもしないように
約束してほしいということですが、
これは口約束ですかあ?」
・・・とんとんとんとんとんとん・・・・・という
ちいさな音が、たえまなくひびきはじめる。
Sさんが、電話で専務と話しながら、
机を指でたたきだしたのだ。
たぶんイライラしてきたんだとおもう。



Sさん
「(苦笑)口約束、口約束ですか・・・
もちろん中身のともなう約束にしたいですね。
それと、さきほど、
Yさん以外の従業員のかたが
パワハラを受けてもいないのに、
と、おっしゃいましたが、
会社のみなさんがはたして、
自分はパワハラを受けていない、とおもっているかは、
今はわからないんじゃないですかね。
人間、つらいと思っていても、
なかなか言えないこともありますよね。
現にYさんも耐えに耐えたすえに体を壊して、
今、交渉を申し入れているわけです。」



専務
「ふーん。でも賞与の受け渡しのとき
全員、社長と面接するんですが、そのとき
会社や勤務形態について要望とかがあったら
何でも話すようにって
いつもいってるとおもうんですけど。」



Sさん
「そうですか、それで、
そこで社員のみなさんから
何の要望も不満のうったえもないから、
何もないんだなと思っていらっしゃる、と?」



専務
「いやーでもいつも面談のあと社長に、社員が
なにか要望とかを言っていたか?と確認してますけど
みんな何の不満もない、満足してるって言ってたって
いうから、なにもないはずです。それに・・・」



Sさん
「(失笑)そうですか、
まあまあ、のちほど
きちんとお話していきましょう。」



専務
「あ、わかった! 
Yさんが編集長にやられて傷ついたから、
ほかの社員に今後おなじことがないようにっていう、
Yさんのみんなへの思いやりですか? 
ははは。
Yさんは入院しちゃって休んだから
みんなに迷惑かけちゃいましたしね。
わるいとおもって、
罪滅ぼしみたいなことかな」
・・・せ、専務・・・・



Sさん
「(ややいらだちをあらわにした声音で)
思いやり、ですか。
そもそもですが、
編集長がYさんに約1か月間してきたことを、
Yさんはパワーハラスメントと認識しています。
そしてYさんは、
時期や細かな内容は違っても、
編集長はほかの社員さんにも
自分にしたのと類似の行為をしていた、と証言しています。
くしくもさきほど専務もご自分で、
編集長は大声でどなることがしょっちゅうあったと、
おっしゃってましたけどね。
専務の今の認識は別としましても、
一般的に職場でどなる、モノにあたる行為は
たった1回でもパワハラ、アウトになりえます。
Yさんは、編集長のそうした行為が、
自分が退職したあとも職場で続くのではないかと 
危惧していらっしゃるのですよ。
だから、やめてほしいと、やめると約束してほしいと
おっしゃっているわけです。」



専務
「あー。思いやりだ。ですね。
でも、それって、
指示に従わなかったときとかに
注意をするなということですか?」
・・・せ、専務・・・・



Sさん
「・・・まあいいでしょう、
好きに考えていただいて、今は。」




専務
「でもYさんが
自分にされたことの謝罪を求めるのはわかるけどさー、
自分以外の社員のことまで求めるのの
意味がわからない」
・・・専務 タメグチ!



Sさん
「意味がわからなくはないとおもいますよ、
今、説明しましたけどね。
退職するにしても、自分のことがあったから
職場環境を改善してほしい・・・と求めていくのは
社員の権利として、ありえることですしね。
ふつうに企業で働いている労働者であれば
おもうことではないですか」



専務
「(笑)そうだなあ、じゃあうちの社員に、
『編集長からパワハラを受けたことがありますか』
っていうアンケートでもとったらどうだろう。
たぶん『はい』とは返ってこないとおもうけど」



Sさん
「あ、していただくのもいいと
思いますよ、べつにね。
やっていただけるなら。」



専務
「『はい』って回答が返ってきたら、
Yさんの要求どおり、
もうほかの従業員にたいしても、どなったりしませんって、
約束させるのもいいとおもいますけど、
社員たちがどう思ってるかもわからないのに」



Sさん
「えーーーと、あーのーでーすーね
事実関係についての調査は
団体交渉でだいじなことなので
何らかの形でお願いすることもあるとおもいます。
でも、よろしいですか、今、ここで、
送った要求書の内容全部に
回答していただきたいわけではないんです。」



専務
「でもおー、こうやって紙に書いてあるから~。
編集長がほかの従業員にパワハラしてるってことが
事実、っていうかんじがするじゃないですかー。
でも事実じゃないかもしれないんだし
編集長はもちろんまだ認めてないし。
わからないのに、
『もうしないと約束する』ってのが
意味がわかんないですし~」
・・・専務 なんか口調がヘンに・・・



Sさん
「事実・・・
はい、Yさんは、事実だと、もちろん
認識していますけどね。
ただ、今お話ししたいのは
そういうことではなくてですね。
いや・・・まあ、はいわかりました、
その点については今後よく話し合って、
必要なら実態調査を
お願いしていきたいとおもいます。」



専務
「大声を出してしかるっていうのが、
やりかたとしてひどいっていうことですよね」



Sさん
「・・・。はい、まあ一応そうですねはい。」



専務
「Yさんの言ってる、編集長のパワハラっていうのは
11月中に作ってたホンのときの、あれのことなんですよね?
あれのことだなっていうのは自分もわかるので
あれのことについて調査をして、っていうことであれば」
・・・専務!ちゃんとわかっているんじゃないですか!!



専務
「わたしからのパワーハラスメントっていうのは
Yさんは何も言ってないんですか?」
・・・Mさん たえかねて 声を押し殺して笑いだす



Sさん
「はい、今のところそれについては」



専務
「次の確認事項ですが・・・
(要求書の記載内容を、
国語が苦手な小5男子による
教科書の音読みたいな口調で
ゆっくりと読み上げ始める)」



Sさん
「すみません・・・、
その音読、いま必要ですか?」



専務
「でも行間とかいろいろあるんでー」
行間・・・?



専務
「病気で退職せざるをえなくなったってこと
本人も、本人のお母さんも
何もいっていなかったけどなあ。
言ってくれればよかったのに。
診断書とかがあれば、
これは今月末まで続けさせるわけにいかない、って
対処したけど」



Sさん
「あ、診断書ありますよ。
あとで送りますね。
でも、そういうことを前もって言えない
というのは労働者の心情としてよくあることですから。
信頼関係とかそういうのも
関係してくるのでは。」



専務
「でも賞与の受け渡しのときの面接で・・・」
せ、専務・・・
Sさん、さすがにイライラしてきたか
大きく身じろぎした拍子に
机の脚を蹴ってしまう。
ガツン!!というスゴイ音が聞こえる。



Sさん
労働基準法の遵守はもちろんですが、
労働者が働きやすい環境を、経営者が責任をもって
作っていく姿勢は大切です。
労働者が要望などを遠慮なく言えるだけの
信頼関係をきずくのもそうですし。
それがうまくいかなかったとき、
労働者側の、会社以外の相談窓口として
われわれみたいな組織があるわけなんです。」



専務
「あ、そうなんですか、すみません
いろいろわからなくて、無知なもので(笑)」
・・・専務・・・



Sさん
「今、ここで、
要求書にあることすべてに
回答をしてもらいたいわけではないです。
読み合わせしたいわけでもありません、
わからないことがあれば
別途聞いていただくことはかまいませんが。
団体交渉申し入れのお知らせと、
要求の内容を送るから確認して対応ください、
と言いたいのです。
つきましては、今日から1週間、
12月20日まで期間を設けさせていただくので、
それまでに、要求書の内容への回答をください。
たとえば未払い賃金の支払い要求に対して、
『固定残業だから、払いません』とかね。
その回答と、こちらの要求をつきあわせて
団体交渉をしていきましょうということで。」



専務
「1週間って そちらの一方的な要求で
こっちも準備とかあるから
難しいかもですけど~。」



Sさん
「(かなりいらいらしたかんじで)
難しいのであれば、難しいことと、その理由を
お知らせくだされば 対応いたします。
できれば期間中にご回答いただきたいですが。
とくにタイムカードや就業規則などの資料は
早めに提出いただきたいです。
どれも会社にあるはずのものなので。
顧問弁護士などに相談していただくのも
もちろんかまいません。」



専務
「はーい がんばりまーす」

が・・・がんばれ・・・

・・・

終了

約45分の通話。


Sさん
「いやー 初回の申し入れで
こんなに食い下がられたのはひさしぶりだ」



Mさん
「訴えを起こされて、
戸惑って不安なんだとおもいますよ、
だから 考える時間をかせぐためにあのように
しがみついてくる。
団交を起こされた企業の経営者に
ときどきある反応です。」



わたし
「なるほど。
正直 引きました・・・
でも 考えてみれば
いつもどおりの専務でした。
聞く耳もたない・とりつくしまがない・なんか的外れ。
言ってくれればよかったのに、とか
前もって相談してくれればとか何度も言ってましたけど、
相談しても聞き届けてくれない。それは社長も」



Sさん
「どういうかんじの回答をよこしてくるかな
というのは、話しててだいたいわかりました。
あとは1週間後にくる回答をみて、対応を考えましょう。」



Mさん
「どうせ遅れるでしょうけどね・・・。
期日までに返してきた企業、めったにないですからね」



Sさん
「こういうところで働くのは
大変だったろうな、とおもいました。
ものすごくカンチガイしたことを
目をギラつかせて堂々と主張してくる
経営者も、怖いですけどね。
労基法なんか知らん!俺が法律だ!』みたいな。
じっさいいましたから。
専務はそのかんじではないけど、
また違ったヤバさがじゃっかんありますね。
でもまあ、戦いがいがありそうだ。」



わたし
「(Sさんに)心から敬意を表します」



Sさん
「経営者ってこんなのばっかです(笑)」



Mさん
「当事者の団交への出席は必須ではないですが、
いまはわたしたちがついているわけですから、
働いていたとき 言えなかったことも、
思い切って主張しやすいとおもうので、
ムリがなければ、Yさんにも団体交渉に
出席していただきたいです。
もちろん、編集長は出席しないように、
あらかじめ求めることも可能です。」

・・・


編集長にはもう会いたくないし
声を聞くだけで怖いようなきもちだが
団体交渉には出席したい。

会社がどのような 返してくるか気になる。
1週間でちゃんと返してくれるだろうか。